ヤンセンナメラ、またはジャンセンラットスネーク(Jansen's Rat Snake)と呼ばれる。体色が尾にかけて黒く染まり、旧セレベス島に生息することから、別名「Celebes Black-tailed Rat Snake」
樹上性傾向の強い昼行性の蛇で、スラウェシ島とその周辺の島々の熱帯雨林(標高1000mまでの原生林)に生息し、鳥、ネズミ、リス、コウモリなどの鳥類や小型哺乳類を捕食します。
鱗の配列は、体鱗列数23または25、腹板数245-257、尾下板数130-140。尾の長さは頭胴長の29-33%(全長の23-25%)程度と比較的長い。体は横方向に圧縮されていますが、大型個体ではそれなりに幅もあり、がっしりとしています。
体色は灰や黄味がかったオリーブ、アイボリーなどを基調とし、体側には黒い斜めの縞がある。体側に入る模様は多様で、ほかにも斜めに傾いた横斑を形成するものから、乱れた太い縦条になっているもの、大部分が黒で塗り潰されているもの、無斑のものまで存在します。模様の幅は頸部から胴体中央部にかけて広くなっていき、途中で模様同士が結合することで「ブラックサイド」になります。この黒はそのまま体の後方に伸び、背中などほかの部位に波及しながら尾端まで到達する。
スラヤール島のヤンセンナメラは体全体が黒化し、顔つきや体型がスラウェシ産のものより細く、より樹上性傾向が強い。
本種に関する情報は少なく、同属の「ホソツラナメラ」と同列とされることが多いです。そのため、自然下ではその大半を樹上で過ごし、鳥をメインに捕食していると推察されますが、飼育下では食性が鳥に偏るといったことはありません。むしろ、容易に冷凍マウスやラットに餌付きます。本種はホソツラナメラほど樹上性傾向が強くなく、樹にも高くまでは登らないという情報もあるようです。体型もホソツラナメラよりやや太く、普通にネズミ類を食べることからも、実際には地表でも多く活動していると考えられています。
WCの状態は、アジアの蛇の中では比較的良いほうです。当初から餌食いだけは良く、一見問題なく飼えそうな印象を受けますが、輸送時のストレスからか、大半は緑色の尿酸をしています。そんな状態でも、立ち上げ中に突然死ぬといったことは稀で、本来は頑健な蛇です。
基本的にWCは寄生虫を宿しており、飼育下に置くことでさまざまな問題が生じる可能性もあります。念のため、最初はほかの個体とは隔離して検疫期間を設け、駆虫する場合は早めに済ませてしまいましょう。
▼飼育
基底温度25-29℃、夜温23-25℃、ホットスポット30-32℃。幼蛇の飼育やWCを立ち上げる場合には、27℃以上で管理したほうが状態良く飼えます。経験上、それなりに低温にも耐えられますが(WCのオスを下限15℃で約2ヵ月間、クーリングさせたことがあります)、季節の影響を多少なりとも受けるような環境では、保温しても冬季に餌食いが落ちることがあります。
ケージは通気性があり、広くて高さのあるもので、樹上性傾向の強い蛇の飼育に準じます。環境に光周期や昼夜の温度変化をつけると、蛇の生活にメリハリがつき、非常に落ちつきます。
本種は不衛生な環境からの脱出欲求がひときわ強く、環境に不満があると、途端に落ちつきがなくなることがあります。水の交換を怠ったりは致命的で、次いで蛇自身がいつも居座っている場所の汚れ、古びた床材を使い続けたりして環境が悪化してくると、並行して落ちつきなく徘徊するようになります。こうした不適切な環境に対する異常な行動は、飼育開始当初にはあまり起こりません。時間とともに蛇の調子が上がってきたころに、ある日突然起こります。小さいケースではこれらの問題が生じやすいため、できれば大型のケージで飼育し、蛇が好きな場所を自分で選べるようにします。
レイアウトは、枝やコルクを組んで配置すると立体的に活動します。植木鉢に支柱を立てた観葉植物を入れることで、葉がシェルター代わりにもなり、ある程度の湿度を期待できます。下部に居座っていることもあるので、できれば底面にもシェルターを用意します。
例外として、立ち上げ時など特別な場合には、最初からレイアウトされたケージには入れず、まずは検疫用の簡易的なケースで管理します。ケースには床材を敷き、水入れとシェルターだけを入れます。さらにケースは必要な面を新聞紙などで覆い、視認性を低くしましょう。この手の蛇は水を充分に飲めているかが飼育の要なので、水入れはシェルターの入口付近に置き、蛇が顔を出すだけで水を飲めるようにします。この設定は定期的に与えられた餌を残さずに食べ、最低でも脱皮を2-3回は確認できるまで続けます。この間に個体のチェックや、必要に応じて駆虫を済ませ、蛇の状態を万全にしてから広いケージに移します。
適切な処置を受けたあとの本種は、余計なストレスを与えない限り、丈夫な蛇です。しかしながら、WCを立ち上げる過程を行わずに飼育すると、何らかのトラブルに見舞われることが多く、それにともない死亡率が高くなります。
-給餌
積極的に動き回って餌を探すのは1日のうちごく僅かで、基本的には上部でゆるやかなとぐろを巻いていることが多いです。
ケージの底面でも普通に活動しますが、おもに地表で活動するシマヘビやホウシャナメラほど活動的な蛇ではありません。シェルターから顔だけ覗かせていることもあり、こうした蛇が落ちついているときを見計らい、ケージの扉をそっと開け、大型の鉗子で餌をゆらすと近づいてきて食べます。ただし、これは人の存在や環境に慣れている場合の話で、実際には自分から近づいてきて食べることはまずないです。
とりわけWCの場合、怒った拍子に餌に咬みつき、そのまま呑みこむといった感じになります。逆にこの怒りやすい性質を利用し、拒食個体でも怒らせて食べさせる方法が使えます。無論、かなりのストレスになると思うので、餌に仕込んでの投薬時など、拒食中にどうしても食べさせたい場合を除き、あまり使わないほうが良いでしょう。
人の存在に対しては怒りやすく神経質な反面、置き餌の食いは良く、各冷凍の「マウス」「ラット」「ヒヨコ」「ヒナウズラ」「スズメ」など、特に問題なく食べます。比較的大きな餌も呑みますが、餌のサイズに対しては慎重です。
たとえば、大きなラットを与えたとき、ほかのラットスネークが時間をかけて呑むとすれば、同サイズの本種は途中で呑むのを諦めるでしょう。餌をサイズアップした際、何度か呑み終えた直後/数時間以内に吐き戻したこともあります。
本種は餌食い自体は良いものの、給餌量や給餌間隔を見誤うと、途端に吐き戻しが見られます。さらにオスは拒食にもなりやすく、気付いたときには「導入時がもっとも餌食いが良かった」なんてことにもなりかねません。
給餌の量や頻度は目安にしかなりませんが、基本的に年間に与える餌の量=蛇の体重×2-4とされています。たとえば600gの個体なら週に一度、最低でも25g程度のマウスを1匹与えます。成長途中の幼蛇や繁殖に用いるメス、肥満や痩せすぎ、飼育環境によって量や頻度を調整します。こちらの環境では、基本は雌雄とも7-14日に一度。妊娠中のメスや調整中の個体はより高頻度で、マウス、ラット、ヒ
ヨコを与えています。幼蛇や亜成蛇には3-7日に一度、餌を与えられますが、胴の太さと同じぐらいの餌を基準にし、量も少なめに与えます。高頻度で多量の餌を与えると肥満になり「与えた餌の量のわりに成長しない」といった状態に陥ることもあります。そのような個体は次第に活力も失せ、餌の選り好みも多くなります。果ては繁殖にまで悪影響を及ぼす可能性があるので、注意が必要です。
水に関しては水入れからも飲みますが、どちらかというと、自身の体やガラス面についた水滴を飲むほうを好みます。本種は体に水が付くことにあまり抵抗がなく、より新鮮な水を好みます。蛇が見つけやすいような大きめの水入れを設置したうえで、定期的に霧吹きをすれば湿度維持にもなり、同時に活性も上がります。
▼繁殖
現状ではWCでの繁殖が多くなると思いますが、数年飼いこんだところで臆病な性質までは変わりません。ペアリングの際も、人目につかない環境を用意しましょう。なお、一度でもペアリングに成功したペアは、次回以降も成功しやすいという傾向があります。
WCの場合は、親個体を事前に立ち上げておくのは勿論のこと、継続した繁殖にはストレスのない環境が必要です。仮に人通りが多く落ちつかないなど、飼育環境に何らかの問題があった場合、最悪は雌雄の一方が先に死亡します。基本的に、世話などで一時的に与えられる強いストレスより、弱くても継続的に与えられるストレスのほうが、個体へのダメージは大きいです。
こちらの環境で卵が採れているWCのペアは、2年以上は飼い込んだもので、最初から完璧な状態の卵を7個産みました。この親個体は、視認性を限りなく低くした温室で飼育していたもので、1日の生活のリズムがほぼ決まっていました。
-交尾
自然下では、雨季のおとずれが刺激になり発情すると考えられます。飼育下ではこの限りではなく、タイミングを見計らって(おもにメスの脱皮後)雌雄を一緒にするのが簡単です。とはいえ、環境に一時的な変化をつけてからのほうが成功率は高く、数週にわたる湿度の上昇や、2ヵ月程度のクーリング、光周期の変化など、一応いくつかの方法が使えます。ただこれらは単に、最終的に雌雄を一緒にしたことで、うまくいっただけかもしれません。
ほかにも「ホソツラナメラ」や「タイガーラットスネーク」で用いられる、大型のケージにペア飼育で繁殖させた例もあるようです。その際には、互いの存在に慣らすための時間を要するといいます。ペア飼育はスペースさえあればもっとも楽な方法なので、いつまでたってもペアリングが成功しない場合には、一考の余地があります。
本項に書いただけでも「光周期/温度/湿度の変化」「ペア飼育」「雌雄の分離」と、いくつもの方法で卵を採ることができます。
結局のところ、いずれかの方法で発情させることさえできれば、季節に関係なく卵を産みます。ナミヘビの中には、繁殖期には繁殖行動が盛んになるというだけで、実際には年間を通して繁殖が可能な種も居るといいます。年間を通して卵を産める本種もまた、繁殖の際にほとんど季節性を感じません。
交尾はまずオスがメスを追いかけて体の上に乗り、そのまま小刻みに体を波打たせたような行動をとります。メスがこれを受け入れると、すぐに交尾を開始します。この体を小刻みに波打たせたような行動は、交尾終了までの間に一定間隔で繰り返します。
交尾時間はだいたい4-6時間のようです。
-妊娠
交尾後はメスの食欲が増すので、消化を見ながら1回の量を少なめ、回数を多めに与えます。3-4週間ほどたつと、今度は卵の成長とともに食欲が落ちます。餌を拒否したら産卵まで餌を与えなくても構いません。妊娠中は普段とは違う場所でとぐろを巻いていたり、夜間に活動することもあります。必要な場所を自身で選べること、それにともないストレスなく行動できる環境は、正常な卵を産むうえで必須になります。
-産卵
産卵は交尾から約60日。メスは90-120日ほどの間隔を空けて数クラッチすることもあります。途中で交尾を挟むなどすると、1年に最大4回まで卵を採れます。メスは産卵から1週間以内には餌を食べますが、産後疲れを考慮し、少量の餌からはじめるのが無難です。
-孵卵
本種の卵は卵殻が非常に厚く、水分を吸収する能力に長けた、スポンジのような性質を持っています。そのため、卵が湿った培養基などで埋もれたような状態になると、多量の水分を吸収して変形することがあります。こうした卵は孵卵期間の終盤に破裂したり、最終的に死籠りになることも多いです。
そのため、卵は埋めずに培養基上に「置く」か、卵と培養基が直接触れないよう、ネットなどを間にかませる。ただし、産み落とされた卵の状態は一定ではありません。最適な孵卵環境は一概にはいえず、例外は多々あります。
また注意点として、頻繁に孵化器の蓋を開けたり、培養基を途中で変更したりはしないこと。蛇の卵は置かれた環境に適応するとも云われ、途中で孵化器に大幅な手をくわえたことが原因で、多くの卵を失ったと思われる例も散見されます。ナミヘビの中でも、孵化までにかなりの時間を要するので、環境を安定させるためにも、より大きな孵化器を用意するのがポイントです。具体的には40×30×(高)10cmほどの容器で充分です。孵化までの長期にわたる日数をふまえ、培養基(パーライト)1に対して水の比率を1-2程度で配合します。
孵化器の中には、水を底に張るだけで培養基を使わないものが存在し、似たような卵殻を持つ「ホソツラナメラ」や「オオガシラ」も孵化させることができるようです。要は培養基に対して水の比率が多かったとしても、卵と直に触れないように管理すれば、問題ないはずです。
卵は静かな場所に置いて管理しますが、つねに一定の温度で管理する必要はありません。むしろ昼夜で温度変化をつけたほうが、大型で丈夫な仔が得られるとも云われています。
-孵化
27-29℃の管理で約120日で孵化します。ホソツラナメラと同じで「すべての卵を自力で孵化させることが難しい」蛇です。一説には、仔が分厚い殻を破れず「死籠り」になるとも云われています。ゆえに最初の仔が卵を切ったときを見計らって、ほかの卵を人工的に切るブリーダーもいます。この方法は救済処置として使い、あくまでも「出口」をひとつ設けるのが目的です。切り込みを入れた卵はもとの場所に戻し、仔が自力で出てくるのを待ちます。
死亡例は孵卵期間の最後の数週間に集中しており、これは卵の中で仔が急速に成長し、孵化器の内側に水滴が付きはじめるころと重なります。このときに何らかの原因で死亡するようですが、死因は不明です。
本種と同じ問題を抱え、より繁殖例の多いホソツラナメラでは「高すぎない温度」「中程度の湿度」「充分な通気性」が、現段階で孵化率を上げるのに有効とされています。
・ヤンセンナメラの孵卵温度と孵化期間
()内は孵化率
24-27℃------145日 (6/7) 148日 (4/4) 1--日 (0/7)
26-28℃------127日 (5/8)
27-29℃------121日 (6/7)
卵は最初の1匹が顔を出した段階で切るようにしていますが、確実な方法ではありません。なにより懸念されるのは、最初に卵から顔を出した1匹というのは、最初に卵から出ようとした1匹とは異なるという点です。そのため、最初の仔が顔を出した段階で、すでに数匹が死籠りになっていることもあります。最悪なのはすべての仔が卵を切ることに失敗し、1匹も自力で顔を出せなかった(最初の1匹すら出てこない)ときで、その場合は全滅しています。
苦肉の策として、最初の1匹が卵を切ろうとするよりも少し前を見計らい、すべての卵に切り込みを入れることもできます。この方法は、孵化日の見極めが必要なのは勿論、逆に卵がダメになる可能性もあります。なお、本種は「卵を切ったときの孵化率はそれなりに高い蛇」です。
孵化日数は107-148日程度。なかには約26℃が孵卵には最適とも云われています。高温だけが死籠りの原因と考えるのは安易かもしれませんが、飼育下では並かやや低い温度帯での孵化率が高いようです。
参考サイト:The Care and Breeding of Gonyosoma oxycephala and Gonyosoma janseni
-死籠り
A)B)C)と表記された画像をご参照ください。これは孵化直後に撮影したものです。
まずA)が自力で殻を破って顔を出しているところで、B)はよく見ると中心に線が入り、薄く切った跡があります。C)は短く切れて殻が破れており、羊水が出ているのが見えます。この直後にB)とC)の卵を人工的に切ったところ、すでに両方とも死亡していました。
これがいわゆる「死籠り」ですが、注目すべきは両方とも僅かに卵を切った状態で死亡している点です。
ひとつの疑問として、はたしてこのB)やC)のような卵が「孵卵環境の改善だけで正常に孵化するようになるのか」ということです。今回の場合は、偶然にも隣りあったB)C)の卵が駄目になりましたが、たいてい卵の接地場所とは関係なく死籠りは起こります。
死籠りには諸説あり、よく云われるのは乾燥から卵殻が硬くなりすぎて、仔が殻を破れず死亡するという説。もうひとつは、孵卵期間の終盤に卵の代謝が上がったときに、孵化器内に充分な酸素がないとの説もあります。いずれにしても、飼育下では多湿と通気性を両立することが難しく、相反する要素の両立は非常に困難です。
さらに同属のホソツラナメラとともに、なぜか「持ち腹」から採れた卵だと孵化率が良い。その際にはシビアな温度や湿度の調整も、卵を切るなどの介入も必要とせず、他種のナミヘビと同じ管理でも孵化するといいます。このことから、CB個体や長期飼育個体から採れた卵は、
持ち腹から採れた卵とは何かが異なると、一部のブリーダー間で考えられています。
要するに、飼育下で形成される卵に問題がある可能性は高く、やはり最大の問題は「卵殻の厚さ」です。これは、CB個体や長期飼育個体(老成個体との情報もあります)が形成する卵は殻が分厚く、結果的に仔が殻を破れず死籠りになるというものです。ほかにも、先に触れたように「ホソツラナメラ」や「オオガシラ」でも、死籠りの原因のひとつとして考えられています。
実際この卵殻の厚さには思いあたる節があり、たとえば持ち腹のホソツラナメラから採れた卵の中には、孵化直前になると、緑の体色がぼんやりと透けているものがあります。これは、長期飼育下で採れた本種の卵では見たことがありません。少なくともこの2種を比較する限りでは、長期飼育下のヤンセンナメラのほうが、殻が分厚い感じがします。ただし、肝心の持ち腹と長期飼育下のヤンセンナメラの卵で比較したわけではないため、実際に殻の厚みに差異があるのかは不明です。
また、A)は頭がようやく出る程度しか殻を切っておらず、卵歯もすでに取れているように見えます。もし、この僅かな切り込みを入れるのに失敗していた場合、B)C)と同じように、そのまま死籠りになったような気もします。
なかには卵殻の厚さを薄くする方法として、メス親にマウスよりもヒヨコを中心に与えるというものがあります(一説にはマウスを継続的に与えることで、卵殻が「肥厚」する)。この方法は、本種に似た革のような分厚い卵殻を形成する、各種オオガシラの孵化率を上げるための、改善策として用いられることがあります。特に「マングローブスネーク」「ミドリオオガシラ」「イヌバオオガシラ」には、分厚い卵殻が原因と思わしき死籠りの例があり、どれも本種やホソツラナメラと同じ孵卵環境を必要とする蛇です。
B)C)は両方とも卵から出ようとした形跡があるだけに、分厚い卵殻が弊害となり死亡したように思えます。一方で、A)のように自力で出てくる個体もいることから、B)C)は卵殻ではなく卵自体に問題があった可能性もあります。
結局のところはどれも憶測の域を出ないので、万全を期すのであれば、卵を切ることを推奨します。
D) 死籠り。体が歪み、養分を残している。おそらく死んで間もない。腹部が大きく凹んでおり、最後は窒息死したと思われる。
E) 死籠り。養分が硬まり、臍の緒が白く濁っている。D)のものより死後、少しだけ時間が経過していると思われる。
F) 奇形(頭部が隆起している)。この個体は卵を切った段階ではまだ生きていましたが、そのまま孵化することなく死亡した。
G) 腐敗が進んでいる。本種に限らず、一番下に埋もれていた卵でよく見られる。
-幼蛇
孵化仔の全長は43-55cm程度、体重17-28g。ファーストシェッドは10-14日。体色は暗い緑色をしています。体表にはファーストシェッドから2-3ヵ月程度の間、マット感のある抑え気味の艶があります。
性質は臆病で荒く、喉元を膨らませて威嚇し、咬みついてくるのが普通ですが、成長とともに人の存在や扱いに慣れる個体が多い。
非常に丈夫であり、WCの飼育経験があれば飼育は容易。
体色は3-6ヵ月ごろから変化しはじめ、尾や体側の模様も徐々に黒く染まっていきます。12-18ヵ月後には、最終的な色彩の傾向がほぼ決まるでしょう。
・餌付け
餌付きは良いほうです。多くの幼蛇は最初からマウスを餌と認識しており、早い段階で置き餌で食べます。餌はファーストシェッドから2週間ほど間隔を空けてから与えると、より確実に食べさせることができます。なかには餌付くまでに一定の期間を要したり、数回の強制給餌を必要とする場合もありますが、たいてい1ヵ月以内には自力で食べるようになります。
注意点としては、大きな餌は好まない感じがするので、最初は小さめの餌をまめに与えるのが無難です。さらに、温度が低いと餌付けに時間がかかる場合があるので、少し高めの温度で管理しましょう。
少数ながらかたくなに食べない個体も存在し、最終的には強制給餌などの対処が必要ですが、本種では非常に稀です。それよりも飼育環境の見直しや、蛇の体に異常がないかを疑ったほうが良いかもしれません。経験上、孵化時に養分を吸収せずに出てきた仔は、長期的に餌付かないこともあり、何かと手間の掛かることが多いです。また、餌のニオイを強く感じさせるために、マウスの頭部や腹部に切り込みを入れましょう。この方法は蛇の消化を助ける可能性もあり、体力が落ちた個体にも推奨されています。
・脱皮不全
幼蛇の飼育で特に気をつけたいのは脱皮不全です。なかでも厄介なのは通常の脱皮不全とは異なり、脱皮の兆候が見られたのにも関わらず、一向に脱がないというものです。この手の脱皮不全になった蛇というのは、長期的に体色がくすんだままになり、とぐろを巻いたときに深いシワができます。皮の一部がめくれていることもあり、そこを皮切りに人の手で剥がそうとしても、まったく剥がれません。
これは、前述したように「脱がない」のであって「脱げない」のとは違います(単に脱げない状態であるなら、人が手伝えば事足ります)。
対処法は湿度を上げて環境を改善する以外になく、もう一度蛇が脱皮のサイクルを通し、自力で脱いだときに治ります。このときの脱皮殻を見ると、まるで何枚かの殻が重なったかのように分厚く、異臭を放っているものもあります。
これはアジアの蛇に多い症状で、本種のCBとWCを含めて計4個体、スジオナメラやアオダイショウでも見たことがあります。治るまでに長い時間を要することが多く、慢性化すると治らない可能性もあります。原因は不明ですが、もともと熱帯雨林に生息している蛇なので、普段から湿度は高めに保ちましょう。とにかく余計なストレスを与えないなど、予防するしかありません。
▼色彩変異
ハイイエロー/ザンティック
2006年ごろにはすでに飼育下に置かれ、CB個体が流通したこともあります。体色への影響力はそれなりに強く、片方の親にこの個体を用いると、生まれた仔は成長とともに黄色味を帯びます。黄色の強さには個体差があります。
メラニスティック
スラヤール島のヤンセンナメラ。単に黒化するだけではなく、ホソツラナメラを彷彿させる体型から、より樹上性傾向が強いとも考えられています。ホソツラナメラとのハイブリッド(Oxy-Jansen Hybrids)に用いられたのは、この黒化型のヤンセンナメラのようです。
参考文献
・Gumprecht, Andreas 2004. Spitzkopfnattern – Die Gattung Gonyosoma. NTV, 63 pp.
・Lang, R. de & G. Vogel 2005. The snakes of Sulawesi. Edition Chimaira, 312 pp.
・Schulz, Klaus-Dieter 1996. A monograph of the colubrid snakes of the genus Elaphe Fitzinger.Koeltz Scientific Books, 439 pp.