最終更新日:2024/09/04
乳白色を基調とした淡い体色に、体の大部分の斑紋を欠いたその様相は、他亜種とは一線を画す。国内ではおもにCBが流通しますが、CBでさえも気性の荒い個体が多いです。マレーシアの高地「キャメロンハイランド」に生息する個体群は、黄色をはじめとした発色が強く、飼育下でも区別されています。
別名「ケーブラットスネーク」とも呼ばれます。熱帯雨林に点在する洞窟に棲息し、全体的に白っぽく薄い体色は、暗い棲息環境に起因するとも云われています。体は「ボルネオスジオ」と並んで亜種中でもっとも細く、キノボリナメラ属を彷彿させます。その薄い体色やケーブラットの名とは裏腹に、森林地帯でも観察されています(洞窟で見つかることが多いのは、身を隠せる場所の多い森林部よりも、単に洞窟に居る個体が人目につきやすい(=見つかりやすい)との声もあります)。ただし、中国に分布する各亜種や「サキシマスジオ」「タイワンスジオ」「ベトナムスジオ」などと比較すると、洞窟で見つかることが多いという(SCHULZ 2010)。
前述のように、本種の生息域は熱帯雨林から冷涼な高地にまでおよび、飼育下でも幅広い温度帯によく耐えます。それなりの低温環境でも餌食いが落ちないなど、食欲旺盛な面もあり、ナミヘビとしては消化力も高い蛇です。細身ながら非常に大きな餌を呑みこむことができ、成蛇ではアダルトのラットやウズラを消費します。
▼形態
体鱗列数25、腹板数287-305、尾下板数105-122。尾は全長の18%±。
頭部は細長くシャープで、体はあきらかに幅より高さがあります。全長は250cmを超えるとも云われ、オランダの飼育個体で270cm±に達した例もあるようです。メスのほうがやや大型であることが多い感じもしますが、多型性には言及されていません。
外観は樹上性種を彷彿させる体型をしていますが、尾がそこまで長くありません。本種やボルネオスジオ、O. t. helfenbergeriの3亜種は、亜種中でも腹板数が非常に多く、形態や生活様式が似かよっています。いずれも鍾乳洞などカルスト地形での発見例が多いため、枝に尾を巻きつけるというよりは、岩肌を登るのに適した構造なのかもしれません。
色彩は、頭頂の外側を中心に青灰に染まり、眼から後方に向かって黒い斑紋が伸びる。頸元は暗い橙、体の中央部にかけて乳白色へと変わり、後方部に入ると紫がかった灰、最後は尾端にかけて黒へと徐々に色調が変化していく。体の後方には明瞭な白いストライプがあり、また腹板にあるキール(側稜)に沿うようなかたちで、別の白いストライプが尾端まで走る。
▼飼育
24-28℃の温度帯で飼育できますが、幼蛇は26-28℃程度で管理するのが無難です。30℃を多少上回っても耐えられはしますが、多くのナミヘビは30℃を超えるような高温環境を避けます。たとえば、国産の「アオダイショウ」「シマヘビ」「ジムグリ」の活動時の平均体温は28℃を超えないとされ、真夏には不活発になることで知られています。
本種の飼育で、特に気をつけなくてはならないのが湿度不足です。コーンスネークやアオダイショウでは問題が生じなくても、本種では乾燥から脱皮不全になることがよくあります。とりわけ幼体期に多く、無対策では高確率で完全に皮が脱げません。所々脱げた脱皮殻だけが、ケージ内に散乱していることも多いです。さらに尾の先に殻が残ったままになると、最悪の場合は壊死して尾が切れるので注意が必要です。
-土で飼育する場合、ダニなど
乾燥対策としては普段から土で飼育し、必要に応じて加水するのが簡単です。
その場合には、最低でも「ヘビダニ」「コナダニ」「トビムシ」といった、土を用いた蛇の飼育で見かける可能性のある生物は、ある程度目視で判別できないと厳しいものがあります。飼育者が土を敷いたケージでダニらしき生物を発見したとき、トビムシなどの一般的に土壌で見られる無害な生物を、ヘビダニなどの有害な生物と混同している可能性もあります。
コナダニは湿度が高く暖かい環境で見つかる、白い非常に小さな生物で、普通に屋内に居ます。蛇の飼育においては通気性があり、最低限の掃除をしていれば、ほとんど見かけることはなく、多少存在していても脅威ではありません。
トビムシに関してはミミズと同じ「土壌改良生物」であり、むしろ土壌環境には居たほうが良いぐらいの生物です。一般的なナミヘビの飼育程度では、目につくまでに増えるということはありません。飼育下で見かけるものは白や褐色をしているも
のが多く、体は細長いため、ダニとは識別が可能です。
蛇にとって脅威なのはヘビダニ(Ophionyssus natricis)で、これは基本的にWCに寄生していたものから移ります。明確に蛇を対象とし、血を吸うことで黒く膨れあがり、最終的にゴマの半分ほどの大きさになります。
いずれにしても、ダニに寄生された蛇は水入れに浸かり続けたり、脱皮サイクルが乱れるなどの異常が見られます。さらに、そのまま放置すると、貧血や免疫力の低下で死亡するといいます。余談ですが、ケガや衰弱などの特殊な場合を除き、自然環境下でダニまみれの蛇というのは、ほとんど居ないのだそうです。このダニは、飼育下に一定期間置くことで爆発的に増えます。
要は市販の土製品から、基本的に蛇に対して有害な生物が発生することはなく、過度に気にする必要はありません。しかしながら、清潔な環境を保つうえで、一度にすべてを取り替えることができるものや、乾燥系の製品に土は劣ります。そのため、清潔さを重視するのであれば、ペットシーツや乾燥系のチップで飼育したほうが良いでしょう。その場合には、ウェットシェルターの設置など、別の方法で湿度管理するようにしましょう。ここで重要なのは、土を用いて湿度を保っているような環境では、何らかの小さな生物を見かける可能性があり、それが蛇にとって「有害な生物」か「無害な生物」かという点です。
-給餌
餌食いは非常に良い蛇です。これまで各冷凍の「マウス」「ラット」「ヒヨコ」「ウズラ」「スズメ」など与えたことがありますが、最終的に選り好みせず食べるようになります。基本的にマウス以外の餌を初めて与えるときは、蛇が環境に慣れ、ある程度育ってから、餌の種類を増やしていくのが無難です。よく用いられる方法として、食べさせたい餌にマウスのニオイを付けると、より確実に食べさせることができます。
注意点としては、蛇のサイズに対して大きな鳥を与える場合です。鳥は体の構造上、うしろから呑むことが困難であり、頭部を咥えられないと呑むまでに時間が掛かります。対策としては、蛇の目の前に鳥の頭部がくるよう持っていってやるか、事前に羽を切ってから与えると、呑みやすくなります。なお、ヒヨコはマウスやラットよりもフンがゆるくなる傾向がありますが、普通のことのようです。
給餌間隔は、幼蛇のうちは3-7日に一度、成蛇であれば10-14日に一度で問題ありません。マウスのみで終生飼育が可能だとは思いますが、より大きな餌を与えることもできます。こちらの環境では1-2ヵ月に一度、120-160g程度のラット、または親のウズラを中心に与えて飼育しているアダルト個体も居ます。
飼育下では肥満になりやすいため、成蛇の場合、給餌の間隔や餌の種類は、蛇の状態で決めたほうが良いのかもしれません。ちなみに、アダルトのコーンスネークを無給餌で痩せさせたことがありますが、たった100g痩せるのに5ヵ月を要しました。蛇の種類や状態にもよるので一概にはいえませんが、ネズミ食いの蛇は痩せにくい傾向があります。特に成長期を過ぎたころの給餌には気をつけましょう。
▼繁殖
CBであれば、繁殖の難易度はそこまで高くありません。体も柔軟で交尾の際に広いスペースを必要とせず、市販の最大サイズの衣装ケースで交尾から産卵まで対応できます。広いスペースで年間を通して「ペア飼育」し、なんの変化もつけずに卵を採った例もあります。
-交尾
下限15℃で2-3ヵ月のクーリングをして発情させることもできますが、その必要性を感じないことも多いです。これは、生息地が年間を通して温暖な熱帯気候であるためで、環境に少しの変化があれば発情させることができます。
たとえば、四季の影響を多少なりとも受けるような環境では、冬季になると自然に発情することがあります。実際、ほとんど温度変化をつけずに卵を採っているペアも居ますが、確実に発情させたい場合は、やはり素直にクーリングさせましょう。いずれの場合も、ペアリングはメスの脱皮を待ってからのほうが成功しやすいです。
なおペアリングの際は、そのまま1-2週間ほど同居させ、何度か交尾させることもできます。
-妊娠/産卵
妊娠期間は飼育温度やメスの状態にもよりますが、25-27℃程度の管理で50-60日。
妊娠中に多量の餌を与えて太らせるよりも、その種における「本来の体型」を維持していることのほうが、遥かに重要です。また、育ちきったメスは産卵前の体重を量り、状態の良い卵を産んだ場合にはその体重を記録しておき、あとは年間を通して適正体重(良い卵を産んだときの産卵前の体重)を維持するような管理をすると、安全だと思います。基本的に交尾後に適切な体重が維持できているのであれば、集中的に餌を与えるといったことはやっていません。多くの場合、卵の総重量の3倍程度の体重を維持することになると思いますが、あくまでも目安です。当然、生物ゆえに数値だけでは測れない要素もあります。例外は多々あると思いますが、少なくともこの管理で何らかの問題が起きたことは、過去一度もありません。
産卵は産卵前脱皮から10-15日ほどで、15日を超えることは稀です。最後の脱皮から1週間もたつと、産卵場所を探して動き回ります。それまでにメスが落ちついて産卵できる場所を用意しましょう。すぐに卵を回収できるのであれば、いつもメスが使っているシェルターを、そのまま産卵場所として使わせるのが簡単です。
-孵卵/孵化
卵殻は比較的薄く、特に孵卵初期は乾燥から凹みやすい。とはいえ、特別な管理をする必要はなく、パーライトに対して水の比率を1:1程度で問題なく孵化する(水の比率を1.2-2.0程度まで上げたところで孵化率は変わりません)。
基本的に孵化まで蓋を開けず、加水もしません。ありがちなミスとしては、孵卵初期に一部の卵が凹んだことに焦り、頻繁に加水してしまうことです。卵は形状を取り戻すのに時間を要することもあり、ときに1-2週は掛かります。孵化器内の湿度は、最初の段階で80-90%程度保てていれば充分です。それでもなお凹み続ける卵というのは、孵卵環境よりも卵のほうに問題があると思うので、卵が凹んだところで加水の必要はありません。むしろ、こうした卵に合わせて加水しすぎると、蓋を頻繁に開けたことで環境が不安定になりやすいです。結果的にほかの卵にまで影響を及ぼし、事態が悪化していきます。基本的に最低限の孵卵環境さえ用意できていれば、問題のない卵なら自然と元の形状に戻ります。経験上、孵卵環境は下手に弄らないほうが良いです。
・マレースジオの孵卵温度と孵化期間
()内は孵化率
24-26℃------90日 (15/15) 90日 (--/--) 91日 (--/--)
25-27℃------74日 (16/16) 78日 (14/15) 79日 (16/16) 81日 85日
26-28℃------69日 (13/15)
25-29℃------75日 (16/16)
孵化率は悪くありません。卵も親個体同様、幅広い温度帯によく耐えます。ただし、継続的に30℃以上の高温で孵卵すると、孵化仔の形態に異常を来す可能性があります。
本種は高温での孵卵時に尾に関するトラブルが多く、とりわけ「尾曲がり」の状態で孵化します。ほかにも孵化率の低下や、孵化仔の小型化(=養分の多くが利用されない)など、さまざまな問題が複合的に起こります。上限は27℃程度にしておくのが無難です。
-幼蛇/餌付け
孵化仔の全長は38-50cm程度、体重は13-22g(大半は16-20g)。参考までに13gの個体で全長約40cm、17gの個体で約45cm、21gの個体で約50cm。
餌付きは良いほうですが、初給餌までに幼蛇が置かれていた環境からも影響を受けます。最初の給餌はファーストシェッドの後になると思いますが、この間に重要なのは、とにかく幼蛇を環境に慣れさせることです。ケースには必ず身を隠して落ちつける場所を作り、必要以上に見ない触らないを鉄則として管理します。温度は26-28℃とやや高めに設定しましょう。
ファーストシェッド後は、難なく呑めるサイズのピンクマウスを置き餌で与えます。その際にマウスの頭部や腹部を切ると、食いつきが良くなります。また、ファーストシェッドから2週間以上は餌を与えず、ある程度飢えさせてから餌付けを開始するのもひとつの手です(これが一番効果的です)。
餌はなるべく幼蛇がシェルターに入っているときを見計らって、その入口付近に置きます。最初は餌を念入りに確かめてから、ゆっくりと食べはじめることが多いはずです。置き餌を一度でも自発的に食べた幼蛇は、たいていその後も継続的に食べます。ときに「むら食い」する個体もいますが、餌付いてはいるはずなので、給餌の間隔を空けましょう。
生後半年ごろまではひときわ臆病な個体が多く、餌より人の存在から逃げることを優先するため、それまでは置き餌を継続します。多くは、時間とともに餌を置く直前に奪いとっていったり、餌をゆらすと近づいてきて、警戒しつつも人前で食べるようになります。
・餌付かない場合
一応、本種は怒らせて食べさせる方法が使えます。大型の鉗子(推奨は40cm程度)などでマウスを挟み、そのマウスで幼蛇の吻端や頸を刺激してみてください。うまくいけば反射的に咬みついて餌を咥え、そのまま呑みます。注意点としては、このとき長さのある鉗子やピンセットを使用しないと、持ち手にある飼育者の手が幼蛇の注意を引いてしまい、警戒して咥えた餌を離してしまうことがあります。この給餌法は、それなりに難しく慣れも必要ですが、何度か繰り返すことで、そのうち置き餌を食べるようになります。
参考文献
・Du W.G. & Ji X. 2008. The Effects of Incubation Temperature On Hatching Success, Embryonic Use of Energy and Hatchling Morphology in the Stripe-tailed Ratsnake Elaphe taeniura. Asiatic Herpetological Research, Vol. 11: 24-30.
・Schulz, Klaus-Dieter 1996. A monograph of the colubrid snakes of the genus Elaphe Fitzinger. Koeltz Scientific Books, 439 pp.
・Schulz, Klaus-Dieter 2010. Synopsis of the Variation in the Orthriophis taeniurus Subspecies Complex, with Notes to the Status of Coluber taeniurus pallidus Rendahl, 1937 and the Description of a new Subspecies (Reptilia: Squamata: Serpentes: Colubridae) [in German]. Sauria 32 (2): 3-26.